バランタイン魔法の七柱と文脈映えと魔法の七柱スーパーハイボール

またぐるなびで記事を書きました!有名なスコッチウイスキーバランタインのキーモルトをめぐる冒険についての物語です。未読の方がいらっしゃいましたら是非お読みください!とにかくすごく楽しい家飲み会でしたので、その雰囲気が少しでも伝われば幸いです。

 

r.gnavi.co.jp

 

今回の企画、俺にはどうしても心残りが一つだけあったんですね。それは、スーパーハイボールをつくろうとして、やり忘れたことなんです。

 

スーパーハイボールとは何か。それは古谷三敏の『BARレモン・ハート』にて登場した、究極にスノッブな飲み方です。まずブレンデッドウィスキーのハイボールをつくる。そして、そのブレンデッドウィスキーの構成原酒のキーモルトになるウィスキーを薄い膜になるように注ぐ。以上です。

 

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実際に作ってみましょう。今回はバランタイン12年のハイボールにミルトンダフを合わせてみます。

 

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バランタインハイボールだけでも当然美味しいですが、ミルトンダフを加えると複雑な味になるというか、味わいの変化をダイレクトに感じれるので面白いです。

 

今回比較的特徴のないミルトンダフでやってみましたけど、これがスキャパのような甘いウィスキーやアードベッグのような極端にスモーキーなウィスキーでやるならまた全然違う印象になるでしょう。ぐるなびの企画でさんざん魔法の七柱を遊び倒したと思っていましたが、まだまだ楽しみ方はたくさんあるんですね。ウィスキーは奥深い。

 

これ、別にブレンデッドウィスキーのキーモルト(構成原酒)を使う必然性、まるでないと思うんですよ。でも、キーモルトを使うことがある種の物語性を帯びる、それは必然である、ということなんだと思います。

 

我々はふだん意識はせずとも多くの物語を消費しています。これについては以前書いた文章を引用します。

 

www.mizuhebi.com

 

例えばですね、同じワインを飲んでたとしても、「コンビニで買った480円のワインだよ」と聞かされて飲んだワインと、「今日という日を祝おうと思って買っておいた、あなたが生まれた年のワインだよ」と聞かされて飲んだワイン、どっちがより美味しく感じると思いますか。

 

美味しんぼの京極さんが生まれ故郷の四万十川の鮎を食べて「なんちゅうもんを食わせてくれたんや…」と感動し落涙するのと同じで、そこには京極さんの琴線に触れる文脈というものがあります。

 

そう、たとえ同じウィスキーを用いた場合でも、それがメインのブレンデッドウィスキーのキーモルトである、という物語を用意したか否かで飲み手の感じ方は大きく異なると思うんですよね。これ、インスタ映えと原理的に同じ概念だと思います。写真ではないけれど、文脈がめっちゃ映えてる。しいて言うのなら”文脈映え”してる。

 

この考え方は、村上隆さんの影響をかなり受けてます。現代美術は海外でなぜあんなに高額で取引されるのか、それは文脈ゲームにのっとっているからだ、と喝破したのが村上さんです。その現代美術という名のゲームのルールを理解した村上さんは、たちまちそのゲームでの勝者になった、というわけです。面白い本ですので機会ありましたらご一読ください。

 

 

 芸術起業論

 

インスタ映えはかなり一般化した概念になりましたが、究極的にはそもそも写真である必然性もないのです。行為が複雑な文脈の上に成り立ったものであるならば、それは面白いし、映える。

 

ウィスキーはけっこう物語がいろいろ用意されてるので、魔法の七柱に限らずともこういう文脈ゲームは楽しめると思います。ウィスキーは奥深い。皆さまもぜひウィスキーの物語に寄り添う文脈ゲーム、つまりウィスキーをめぐる冒険をお楽しみください。

3歳9か月

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夜、リビングにいる娘を早く寝かそうと思って「もうお布団にいこ?」と促したらキッとこちらを見据えて「おふろでたらトランプであそぶってゆったでしょー!?」とこちらを問い詰めてきた。言った。確かに俺はそう言った。それは風呂の時間なのにトランプしたいと娘が駄々をこねていたので「トランプはお風呂でてからやろうね?」と娘を風呂に促すために、いわば物事の”流れ”で出た発言だ。1時間前のことなのに俺はそんなのすっかり忘れていたが、娘にとってはそれは大事な遊びの約束で、それをすっぽかすなどとんでもない!ということだった。確かに約束は大事なことだし、それをすっぽかすなどとんでもないことだ。娘はまだ小さく知識も社会経験も圧倒的に不足しているが、しかし一人の人間として尊重すべき人格というものがすでに彼女にはあるのだ。小さい娘だから、と軽はずみに発言してたと思う。至らなかったのは俺だ。これが子に教わるということか…とぼんやり思った。

 

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1月のある日の夜、東京に大雪が降った。娘が雪遊びをものすごく楽しみにしてたので、「明日雪が積もったら早起きして雪だるまつくろうね」と約束した。普段は朝7時過ぎにのそのそと起き、ねむいまだおふとんにいたいと不機嫌にぐずる娘だが、この日は朝6時に「雪つもったよ。雪だるまつくってあそぼ」と娘に声をかけるとガバッと布団から起き、眠い目をこすりながら身支度をととのえ、いきおいよく雪の積もる外へ飛び出して行った。なんというか、執念である。このパワーはいったいどこから来るのか。すごい。根性だ。

 

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俺も出社前に娘と遊べて楽しかった。

 

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最近noteを始めました。娘と遊んだ記録が中心です。もしよろしかったらそちらも併せてお読みいただけると嬉しいです。

 

kodawari|note

 

 

私が愛した森中聖雄と世紀末プロ野球系テキストサイトとカンバセーションピース

delete-all.hatenablog.com

 

すごく面白かった。なんだか俺もプロ野球のことを語りたくなったので記憶をたよりに書く(ので数字など間違っているかもしれない、あらかじめ断っておく)。

 

俺がプロ野球を好きになったのは高2の頃だ。1997年。そう、万年最下位争いをしていた弱小横浜ベイスターズが当時常勝を誇っていた首位・野村ヤクルトを2.5ゲーム差まで追い詰め、あわや奇跡の逆転優勝かと誰もが思い始めた頃の話である。当時実家のある横浜に住んでいたのでこれは応援せねばならんと一発で野球というものにハマってしまった。で、いざ真剣に野球を見始めたらヤクルトとの首位攻防直接対決で石井一久ノーヒットノーランを食らいそのままずるずるとゲーム差を引き離され結局7.5ゲームぐらい引き離され二位のまま終わってしまった。当時の石井一は凄かった。

 

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改めて見ると古田の正確無比な二塁送球もすげーよな。石井は当時の球界では一二を争う剛速球を誇っていたが、コントロールは悪かった。それを支えたのは女房役の古田である。古田が青いキャッチャーミットを使っているのは、その方が石井にとって見やすく投げやすいからだ、と古田本人が何かのインタビューで語っていた。茶色や黄色のミットだと目立つので逆に石井がコントロールを意識してしまい、結果として外してしまう、だから目立たない青のミットが石井には良いんだ、というようなことだったと思う。投手にあわせて彼らの持ち味を最大限に生かす名捕手であった。田畑や吉井など他球団をお払い箱になった投手をヤクルトで再生させた功績から「野村再生工場」と呼ばれていたが、古田なくしては彼らの再生もありえなかった。

 

さて、ご存知の通り翌年の1998年に横浜ベイスターズは悲願のセリーグ優勝、そしてパの王者・西武を下し38年ぶりの日本一に輝く。この1997~98年という時代は、インターネットというものが世に普及しだした時代でもある。当時はブログなんてものはなかった。みなHTMLをテキストエディタにしこしこ手打ちしてホームページをつくっていた。当時を知らない若い方も「テキストサイト」という言葉は聞いたことあるかもしれない。といってもサブカル日記系テキストサイトについてしかその歴史を語る者はいないかもしれないけれど、プロ野球に関してもテキストサイト全盛時代だったのだ。当時はプロ野球テキストサイトの管理人たちが夜な夜なその日の試合を面白おかしい文章にしたてあげネットに公開していた。なんjまとめサイトしか知らない若い世代には信じられないかもしれないが、その全てがテキサイ管理人たちの文才あふれるオリジナルの文章だった。信じられるか?パクリサイトなどこの世に存在しない、すべてがオリジナルできらきら輝く文章だけが存在していた世界のことを。

 

そう、俺が野球を知ったときにはすでに野球はインターネットと地続きだった。その日の夜にプロ野球をテレビで見て、プロ野球ニュースをチェックし、深夜のテレホタイムにプロ野球テキストサイトを巡回し、面白おかしい文章を読んではげらげら笑うのが日課だった。俺はほとんど横浜ファンのテキストサイトしかおっかけていなかったので見てたサイトに偏りがあるけれど、名前を憶えてるのは「嗚呼、横浜大洋銀行」「くたばれ!横浜ベイスターズ」「虚偽スポーツ新聞」「ホロビノビガク」、あとはプロ野球の話題全般を扱う総合サイトとして本田透さんの「プロ野球景気の悪い話」を読んでいた。

 

フミコさんは「当時の小学生がマネするような選手がヒーローだ」としていたが、俺が野球にはまったのはそういう環境だったので、俺にとってのヒーローとはテキストサイトでネタになるような選手だった。

 

まずはハマの花火師、川村丈夫。チェンジアップが持ち味で17勝をあげたこともある頭脳派ピッチャーだったが、同時に被本塁打も多く、よくネタにされていた。

 


もはや伝説と化したこの芸術的な被ホームランを見よ!巨人の投手・ガルベスにくらった豪快な場外ホームラン、しかも満塁ホームランである。こんなのある?なんなの、助っ人外国人の四番打者なの?っていう飛距離の出し方である。ガルベスのバッティングが良いのはもちろんだが、これは投手・川村という稀代の被ホームランアーチストが投げてなければ達成しえなかった偉業でもある。

 

そう、投手が打つと盛り上がるのである。今でこそ二刀流・大谷翔平がいるけれど、当時からバッティングの良い投手は(テキストサイトでは)人気だった。

 

打撃の良い投手といえばなんといっても野村弘樹である。当時の横浜の左のエースで権藤監督の信任もあつく、西武との日本シリーズでも第一戦の先発を任されるほどだったが、打者としての能力も高かった。

 


動画の中でシーズンの打撃成績が表示されているが、それを見ると60打数15安打 .250 1HR 8打点。現在のベイスターズのどの代打よりも打撃成績が良い。相手は西武の大エース・西口。そんな一線級の投手を相手に第2打席でツーベースを放ち、第3打席でもツーベースを放っている。この無駄のない美しいスイングを見よ(1:40あたり)!西口相手に左中間すなわち逆方向に放った豪快な一打。しかも打球が伸びて名手小関が取れないほどの鋭い当たり。なんなの?筒香なの?っていうレベルの見事なスタンディングツーベースである。

 

横浜の左投手には大打者が多い印象である。代表格はなんといっても吉見祐治ではなかろうか。初年度こそ二けた勝利をあげたが、以降は投手として伸び悩み、なかなか勝ち星を挙げられなかった。しかしバッティングは一貫してすごかった。

 


もう普通に猛打賞打ったり普通にバスター決めたりしちゃってた。打撃センスの塊であった。もし彼が途中で打者に転向してれば今頃は…と思うと残念でたまらない。同時期にヤクルトにいた高井雄平も吉見と同じく将来を期待された左投手であったが投手として伸び悩み、思い切って打者に転向したところ打撃開花し、現在でもヤクルトで主軸を打っている。吉見も途中で打者転向していれば今頃まだ横浜の主軸を打っていただろうに…と誰もが思う選手だった。結局吉見はあくまで投手にこだわり、晩年はロッテに移籍したが、そこでも思うような投手成績を残せず現役を引退した。

 

横浜の左腕というと印象に残ってる選手がもう一人いる。森中聖雄である。活躍した年数が短いので彼のことを知らない人がほとんどだと思うけど、ひょっとしたら巨人ファンの中には森中の名前を知ってる方もいるかもしれない。なぜなら森中は逆・松井キラーだったからだ。つまり、左キラーということで登板したのに松井秀喜に打たれまくったホームラン配給王だったのである。

 

 

 

松井のスイングスピードすげーな。完璧。看板直撃のサヨナラ特大弾である。

 


翌年の森中vs松井。この映像は今でも松井秀喜の特番があるとよく見かける伝説のHRである。前代未聞、なんと東京ドームの天井に当たりそのまま右翼席に入った超特大弾である。看板を直撃するHRはたまにあるが、天井直撃HRはこの松井のHR以外記憶にない。

 

誤解の無いように言っておくが、稼働年数が短いとはいえ、森中は中継ぎとしてそこそこ活躍したピッチャーである。しかしなぜか松井には極端に相性が悪く、巨人戦ではとにかく打たれまくった印象しかない。その相性の悪さ/打者にとっての相性の良さ、を買われ、横浜で現役生活を終えた後は巨人に打撃投手として雇われた。良い話である。

 

そんな森中の現役最終年の話である。その頃は調子を落とし主に敗戦処理をする投手となっていた。甲子園での対阪神戦、この日は序盤から阪神の猛攻により圧倒的な大差がついていた。その日の横浜ベンチはもう負けを覚悟しており、主戦ピッチャーを温存し、森中に登板が回ってきた。森中は無事阪神打線を抑え、その次の回に打席が回ってきた。投手温存のため当然代打は無く、森中はそのまま打席に立った。

 

 

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みよ、阪神の藪から打った完璧なHRを!あの広い甲子園の、浜風が吹いて逆風になるのでとりわけ難易度の高い右方向へ引っ張るスイングでライトスタンドに突き刺さる豪快な一発である。森中は主に中継ぎとしての登板が多く、滅多に打席に立つことはなかった。投手としての成績を落とし、敗戦処理となったがゆえに生まれた打席でのHRであった。ちなみに森中にHRが生まれようが焼け石に水で点差は埋まらず、そのままこの日の横浜は敗れたし森中もこの歳で現役を引退している。しかし、稼働年数が短いとはいえ、あまり成績を残せなかったとはいえ、森中聖雄が記憶に残る選手だったのは間違いない。

 

 これは俺だけが思ってることではないと思う。勘だけど、たぶん小説家の保坂和志も森中のことが好きだと思う。

 

なぜかというと、彼のカンバセーションピースという小説の中に森中という登場人物が登場するからだ。これは偶然の一致ではない。なぜならこの小説のなかで横浜ベイスターズの試合のシーンがけっこうな頻度で登場するからだ。

 

カンバセイション・ピース (河出文庫)

 

 

俺が持ってるのは新潮文庫から出てるんだけど、いま調べたら河出文庫になってた。へえ。河出の表紙、誰が撮ってるのか知らないけど、新潮文庫版は佐内正史である。この小説で描かれているのは2000年の横浜ベイスターズ。小説の初出は2002年の新潮。単行本化は2003年。時代である。

 

「なんで石井義人を使わないんだろう」

と言い出した。

「――優勝した年は不動のオーダーでよかったけど、いまはそんなチームじゃないんだから、もっと来年のこと考えて若手を使ってかなきゃダメだよ。このまま権藤が監督やってたら、大矢の時代の財産を食い潰して、また五年か十年、Bクラスだよ」 

   (保坂和志カンバセイション・ピースより引用。以下同じ)

 

この会話、今の横浜ファンが聞いたらひっくり返るかもしれない。98年に優勝した横浜ベイスターズは、同じ権藤監督の指揮の元、99年3位、00年3位の成績を残し、Aクラス常連の強豪であったが、横浜ファンの大半は「権藤監督の采配が悪いから3位なんだ、監督を変えるべきだ」と主張していた。この小説の中の会話は、当時の空気をリアルに再現している。そして今からでは考えられない高望みである。

 

「でも大洋ファンは森を嫌ってるぜ」

「権藤じゃなくなってくれれば、森でも誰でもいいよ、俺は」

管理野球は横浜のチームカラーに合わない。監督はやっぱり生え抜きの山下大輔がいいって言うに決まってんだよ」

 

今だとこんな会話、滑稽以外の何物でもないが、こんなファン、当時の横浜にわんさかいた。ご存知の通り、この後横浜ベイスターズは森監督の元で最下位に転落し、山下大輔が監督になってから、万年最下位のスタイルが定着する。この小説の執筆時点では分からないことだ。なんというか、天罰だと思う*1

 

 

ちなみにこの小説は野球小説というわけではない。というか、事件という事件すら起こらない。広い家で共同生活を過ごす若者たちの日々を、たんたんと描いただけの作品である。その登場人物のなかに森中がいる(森中が森中聖雄から来ていることは明白である)。そして登場人物たちが横浜ベイスターズファンで、横浜スタジアムで観戦するシーンが何回か描かれるだけなのでこの小説における野球の重要度はそれほど大きいものではない。あ、事件らしい事件が起こらないと書いたが、終盤でちょっとした事件らしいことがおこる。これはネタバレになるかどうか分からないが、2000年の横浜ベイスターズが作中に登場するとなれば知ってる方は誰もが知っている事実であるのでここに記す。つまり、権藤監督が退任し、横浜の不動の四番だったローズが電撃的に引退を発表した。

 

「ローズが引退したショックで熱を出した」

と、私が寝ている枕元で笑い、全然野球がわかっていない森中がそれに同調して、

「内田さんにとって、野球って何なんですかぁ、一体。教えてくださいよ。ローズって、そんなに偉大な存在なんですかぁ?おれの友達にも岡田有希子が自殺したときに、ショックで一週間小学校休んだヤツがいましたよ」

というのを、話としてはおもしろいから否定しなかったけれど、この結末は落胆するどころか腹が立つだけで、最終戦のあと夜遅く前川からかかってきた電話を聞きながら、ローズがいない球場で、ローズを抜かした選手たちが、ここにいないローズを思って涙を流すというチンケなメロドラマの一員にならなくてすんだことを誇らしいとさえ思って、

「ローズがいない空間に向かって流す涙なんか、おれは持ってない」

と、痛い喉で前川に言ったけれど、くやしいことに前川の話を聞いているだけで私はそのときの球場の光景がまざまざと浮かんできてしまって、結局私自身もそこにいたのと変わらない満足感さえ得てしまっていた、 

 

いやー。この喪失感、凄くないですか。ちなみに同年に駒田も退団しているが、誰も駒田でここまでの喪失感を感じない(駒田ファンの方、すみません)。とにかく当時のローズは神だった。分かる。超絶分かる。この喪失感。「ローズがいない空間に向かって流す涙なんか、おれは持ってない」歴史に残る名文である。俺も機会があったら引用したい(今してるけど)。

 

ちなみにこの小説の中で人をイラっとさせる話の仕方をする森中であるが、この話し方のモデルは小説家の中原昌也とのことであった。

 

*1:ちなみにこのあたりのベイスターズ崩壊の経緯は以前記事にしたことがある。ご存知ない方がいれば併せてお読みください。 

www.mizuhebi.com

東南の風が吹きすさぶ必殺のヨーロピアンホットチョコレート #独身男性手作りチョコバトル

 独身男性手作りチョコバトルと聞いて、すぐにある予感が走った――この勝負、運否天賦じゃない。おそらくは愚図が堕ちていく。勝つのは、智略走り、他人出し抜ける者…

 

tsukurioki.hatenablog.com

 

限定ジャンケンにはリピーターでも参加できるように、独身男性手作りチョコバトルは既婚者でも参加できる。分かっている。俺は限定ジャンケンで言うところのリピーターだ。リピーターとして参加するなら船井のように必勝の策をもって参加するより他にない。

 

そうだ。今から書くのは意中の異性を陥落せしめるための必勝のチョコである。例えるなら赤壁の戦いにおける諸葛孔明。10月の赤壁で吹くはずのない東南の風(たつみかぜ)のようなものだ。偶然に見えて、そこには必勝に至るまでの明白な理(ことわり)がある。

 

今回つくるのはヨーロピアホットチョコレートだ。聞き慣れない言葉かもしれない。蔵前のダンデライオンチョコレートという最高にシャレオツなチョコレート屋で供されるホットチョコのことである。

 

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ヨーロピアンとはなにか、ということだけど、俺の理解だと固形のチョコが”発明”される以前の、液体だった頃のチョコのことではないかと思う。飲んでみれば分かるけれど、想像以上に濃い。喉が焼け付くほど甘い。それがヨーロピアホットチョコレートである。

 

なぜヨーロピアホットチョコレートが必勝の策なのか。決まっている。どんなに高級なチョコレートだって、どんなに手の込んだ手作りチョコレートだって、それが固形物であるかぎり、手渡した時点で試合終了である。しかしそれが液体ともなればどうか。その辺で手渡しするわけにはいかない。ならば自宅で調理するか相手のお宅で調理しつくりたてをその場で飲む必要がある。

 

孫子を引くまでもなく地の利を得れば戦の趨勢はほぼ決するといっても過言ではない。そうだ、口実をつくって自宅に招くか相手のお宅にお邪魔した時点ですでに勝利はほぼ手中にある。これが兵法である。

 

しかしヨーロピアンチョコレートを振舞う(ために家に呼ぶ)のには相当の勇気がいる。分かる。分かるが虎穴に入らずんば虎子を得ずというではないか。降るとみせかけ船に枯れ草を積んで敵陣につっこんだ老黄蓋の気概をもって当たって砕けるしかない。ちなみに黄蓋の計が失敗に終わったらこの必勝の策も終了である。楽して戦に勝てるとでも思っていたか?

 

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材料は板チョコ2枚と生クリーム。

 

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徹底的に刻む。

 

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きざみチョコと生クリームを徳利に入れ、湯煎にかける。

 

これ絵になるとおもってやってみたけど実際はダマになるしかき混ぜづらいので大変だった。どうしても徳利を使いたいのなら無理せず小ぶりのナベで溶かしてから徳利にそそいだ方が無難であった。あの孔明ですら街亭に馬謖を配置し大敗を喫したのだからこのぐらいの失敗などかわいいものである。

 

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 おちょこ一杯で板チョコ1個分ぐらいに相当する。完全にヤバい飲み物を作ってしまった。一口飲んだだけで濃すぎてヤバい。鼻血出ちゃう。まるで濃縮ウランみたいなヤバさである。ウラン飲んだことないけど。

 

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チョコなので酒を飲むならウィスキー一択である。普通のチョコならどんなウィスキーにでも合いそうだが、ホットチョコだとウィスキーのチョイスにもセンスが問われる。

 

唐突だけどここでウィスキー性格診断を提唱したい。つまりハンターハンターヒソカのように「キミ強化系だろ?強化系は単純一途」的なことをズバっと言って異性のハートを鷲掴みにするという作戦である。きょうび、ウィスキーの蘊蓄なんぞ言ってもモテない。間違いなくモテない。なぜならぐぐればすべてネットに答えが書いてあるからだ。しかしgoogleも教えてくれないあなたの性格をピシャリ言い当てたら間違いなくモテる(個人の見解です)。

 

ジャパニーズ … 単純で一途

スコッチ … 理屈屋、マイペース

アイラモルト … 気まぐれで嘘つき

バーボン … 短気で大雑把

アイリッシュ … 個人主義者・カリスマ性あり

カナディアン他 … 神経質

 

当たってるだろうか。まあ当たっていなくとも物事にはなんでも例外があるので何ら問題は無い。そして相手がどのウィスキーを選ぼうが「僕らは正反対で惹かれあう」と言っておけばいい。相手が自分と同じウィスキーを選んだら?そんなの「僕らは価値観を共有しているので好みが一緒」と言えばいい。お気づきだろうか。この性格診断をしたときからすでに孔明の罠にはまっているのだ。まさにこれは陸遜をハメた石兵八陣。この備え、いかにして破ることができるだろうか?

 

とまあ、恋愛工学?みたいに理詰め?で書いてみたけど、そもそも三国志のオタトークをしてモテたためしは無いですね。そういうとこだぞ!

 

 

今週のお題「バレンタインデー」

純粋な趣味としてのゴミ拾いについて

ゴミ拾いが好きである。たまに休みの日を利用して野外に出かけ、落ちているゴミを拾って帰るのを好きでやっている。

 

これを言うと大抵「ボランティア活動ですか、立派ですね」みたいな反応が返ってくる。完全に誤解である。例えば趣味がプラモですという人に対して「ボランティア活動ですか、立派ですね」なんて返すだろうか?

 

俺はただ単に好きでゴミ拾いをやっているので誰かのためにやってるわけじゃないんだ、自分のためにやっているんだ、立派な行為でもなんでもないし、ましてやその立派なことをしている自分を誰かに認めてほしくて言ってる訳でもない。

 

こういうのをいちいち説明するのが面倒くさいのでこの趣味のことを他人に言うことが億劫になってしまった。だから普段は言わない。

 

しかしここは俺のブログなので、俺の趣味について存分に語っていいはずだ。なので書く。純粋な趣味としてのゴミ拾いについて(以下、純粋ゴミ拾いと呼称する)。

 

例えばビーチコーミングという趣味がある。浜辺を散策し、打ち上げられた珍しい漂着物などを観賞したり収集したりする。なるほど立派な趣味である。ならば、純粋に拾う行為のみが好き、つまり純粋ゴミ拾いが好き、というもの好きがいたってもいいのではないだろうか。というか事実、少なくともここに一人いる。麻雀といえばなにかを賭けるものと思ってる人は大抵「ノーレートの麻雀なんて面白いの?」って言うけど、いや、ノーレートの麻雀すげえ楽しいですよ、天鳳の会員が何人いると思ってんの、と言いたい。つまり己の実益とは無関係に趣味というものは存在する。

 

俺はもともと風景写真を撮るのが好きで、休みの日にでかいカメラをかついで海とか河原によく行っていた。するとどうしてもその辺に落ちているゴミが気になってしまう。土に還るゴミならいいけれど、土に還らない石油化工品がその辺に落ちているとどうも落ち着かないのである。これは「そういう性格なんだ」とご理解いただきたい。きれい好きな人が自分の部屋が散らかっていると落ち着かない、というのと一緒である。野外に落ちているゴミをみるとどうも落ち着かないので、出来る範囲でゴミ拾いをする。これは自分が気持ちよくなるためにやっているので完全に自己満足行為である。お分かりいただけるだろうか。

 

俺は自分の部屋が散らかっていても特になんとも思わない。なぜならゴミが散らかっているわけではなく、必要な物が散らかっているだけであるからだ。なので純粋ゴミ拾いは家庭内の片づけとはなんら相関関係がないことも同時に言っておきたい。ちなみに家庭内におけるゴミの分別とゴミ出しは大好きである。しかしゴミでないものを所定の位置に戻す作業は本当に苦手なのだ…。部屋の片づけはゴミ拾いとは全く異なるゲームなのである。

 

 

 

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去年の夏、 娘と一緒に海にゴミ拾いに行った。

 

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ててててーっ

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ごみあったよォー!

 

娘もすっかりゴミ拾いが好きになってしまった。ゴミ拾い、宝探しみたいで楽しい。海がきれいになるので楽しい。子どもと遊ぶ野外のアクティビティとして最適なのではと思っている。この楽しさ、伝わってるだろうか。

 

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月に1回、町会の清掃ボランティアに娘と参加している。集合時間が早いのだけどこの日は娘も毎回ちゃんと早起きする。娘も本当に楽しみにしてるのだ。

 

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参加した子どもにはお菓子が配られる。大人には発泡酒一本配られる。別にそれが目当てじゃないけれど、早起きは三文の得、という体験も生活習慣として良いのではないのだろうか。

 

 


一昨年の秋以来ずっと使ってなかったBioLiteキャンプストーブ、さすがにそろそろ使わなければまずいと思い、久しぶりに娘と二人で野外BBQをしようという気になった。

 

前回は京急に乗って三浦半島に行ったのだけど、今回は近場でやることにした。江戸川の河原である。

 

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江戸川河川敷は公園や緑地を除き火器の使用は自由である。とはいえ、火器使用者のマナーが悪ければ将来規制されるであろうことは想像に難くない。だからこういう場合、江戸川河川敷でBBQを楽しむと同時に、ついでに自分たちが出した以外のゴミも拾って帰るといいと思う。気分は野口健さんのエベレスト清掃登山である。素人がゴミを捨てて去っていくのだから、アウトドア上級者たる俺と娘がそれらを拾って帰るしかない、というマウンティング感覚だとボランティア精神が台無しになるのでちょうど良いと思っている。

 

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リュックサックひとつあればBBQは可能である。BBQで酒を飲みたいのなら公共交通機関で行くしかない。

 

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娘のリュックにはおやつと着替え。目線をくれているヤギさんはぶち猫さんにいただいた動物ぽんぽんである。

 

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着いた。家からドアツードアで40分くらい。

 

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俺は火おこし。

 

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娘は薪拾い。

 

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酒を飲みながらぶりの味噌漬けを焼いている。西京焼きである。

 

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美味しくできた。野外の食事と酒は最高なのだ。

 

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BBQ撤収の後はゴミ拾いである。

 

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河川敷の階段にぺろぺろチョコレートの棒が二つ。分かるよ。分かる。青春だ。

 

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この日はコンビニ袋ひとつぶんのゴミを回収して撤収。お疲れ様でした。よく頑張った。

 

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河川敷から駅までの道の途中には銭湯がある。これでひとっ風呂あびたら最高なんだけど…娘は熱い湯が苦手なのでちょっとまだ早いという感じである。数年後には河原BBQ即銭湯をキメてみたい。