相変わらずハードディスクの写真を漁っている。
いや、もはやこの言い方は適切ではないのかもしれない。
俺はここのところずっと並行世界と行き来してる。あちらはあちらでの時間が流れている。ありえたかもしれないもう一つの世界。こちらの世界では政治生命を絶たれた政治家たちが権勢をふるい、こちらの世界では選手生命を絶たれたスポーツ選手が躍動する世界。
そういえばこの世界ともう一つの世界を行き来する小説があったな、ふと思い出したのが村上春樹の世界の終わりとハードボイルドワンダーランドである。
どんな話だったっけ、と文庫版の上巻をめくると、冒頭の序文にとんでもない引用があった。
太陽はなぜ今も輝きつづけるのか
鳥たちはなぜ唄いつづけるのか
彼らは知らないのだろうか
世界がもう終わってしまったことを
"THE END OF THE WORLD"
ぞっとした。まさに並行世界のことである。俺は小説を読んでいて、冒頭からこれだけ撃ち抜かれるような体験はしたことないかもしれない。
写真は死だ、と荒木経惟は言った。
しかし今の俺の感覚では少し違う。
写真とは、世界の終わりである。
ありえたかもしれないもう一つの世界の中で、世界がもう終わってしまったことに気づかない彼らが、今日も唄いつづけてる。
続く。