独身男性手作りチョコバトルと聞いて、すぐにある予感が走った――この勝負、運否天賦じゃない。おそらくは愚図が堕ちていく。勝つのは、智略走り、他人出し抜ける者…
限定ジャンケンにはリピーターでも参加できるように、独身男性手作りチョコバトルは既婚者でも参加できる。分かっている。俺は限定ジャンケンで言うところのリピーターだ。リピーターとして参加するなら船井のように必勝の策をもって参加するより他にない。
そうだ。今から書くのは意中の異性を陥落せしめるための必勝のチョコである。例えるなら赤壁の戦いにおける諸葛孔明。10月の赤壁で吹くはずのない東南の風(たつみかぜ)のようなものだ。偶然に見えて、そこには必勝に至るまでの明白な理(ことわり)がある。
今回つくるのはヨーロピアンホットチョコレートだ。聞き慣れない言葉かもしれない。蔵前のダンデライオンチョコレートという最高にシャレオツなチョコレート屋で供されるホットチョコのことである。
ヨーロピアンとはなにか、ということだけど、俺の理解だと固形のチョコが”発明”される以前の、液体だった頃のチョコのことではないかと思う。飲んでみれば分かるけれど、想像以上に濃い。喉が焼け付くほど甘い。それがヨーロピアンホットチョコレートである。
なぜヨーロピアンホットチョコレートが必勝の策なのか。決まっている。どんなに高級なチョコレートだって、どんなに手の込んだ手作りチョコレートだって、それが固形物であるかぎり、手渡した時点で試合終了である。しかしそれが液体ともなればどうか。その辺で手渡しするわけにはいかない。ならば自宅で調理するか相手のお宅で調理しつくりたてをその場で飲む必要がある。
孫子を引くまでもなく地の利を得れば戦の趨勢はほぼ決するといっても過言ではない。そうだ、口実をつくって自宅に招くか相手のお宅にお邪魔した時点ですでに勝利はほぼ手中にある。これが兵法である。
しかしヨーロピアンチョコレートを振舞う(ために家に呼ぶ)のには相当の勇気がいる。分かる。分かるが虎穴に入らずんば虎子を得ずというではないか。降るとみせかけ船に枯れ草を積んで敵陣につっこんだ老黄蓋の気概をもって当たって砕けるしかない。ちなみに黄蓋の計が失敗に終わったらこの必勝の策も終了である。楽して戦に勝てるとでも思っていたか?
材料は板チョコ2枚と生クリーム。
徹底的に刻む。
きざみチョコと生クリームを徳利に入れ、湯煎にかける。
これ絵になるとおもってやってみたけど実際はダマになるしかき混ぜづらいので大変だった。どうしても徳利を使いたいのなら無理せず小ぶりのナベで溶かしてから徳利にそそいだ方が無難であった。あの孔明ですら街亭に馬謖を配置し大敗を喫したのだからこのぐらいの失敗などかわいいものである。
おちょこ一杯で板チョコ1個分ぐらいに相当する。完全にヤバい飲み物を作ってしまった。一口飲んだだけで濃すぎてヤバい。鼻血出ちゃう。まるで濃縮ウランみたいなヤバさである。ウラン飲んだことないけど。
チョコなので酒を飲むならウィスキー一択である。普通のチョコならどんなウィスキーにでも合いそうだが、ホットチョコだとウィスキーのチョイスにもセンスが問われる。
唐突だけどここでウィスキー性格診断を提唱したい。つまりハンターハンターのヒソカのように「キミ強化系だろ?強化系は単純一途」的なことをズバっと言って異性のハートを鷲掴みにするという作戦である。きょうび、ウィスキーの蘊蓄なんぞ言ってもモテない。間違いなくモテない。なぜならぐぐればすべてネットに答えが書いてあるからだ。しかしgoogleも教えてくれないあなたの性格をピシャリ言い当てたら間違いなくモテる(個人の見解です)。
ジャパニーズ … 単純で一途
スコッチ … 理屈屋、マイペース
アイラモルト … 気まぐれで嘘つき
バーボン … 短気で大雑把
カナディアン他 … 神経質
当たってるだろうか。まあ当たっていなくとも物事にはなんでも例外があるので何ら問題は無い。そして相手がどのウィスキーを選ぼうが「僕らは正反対で惹かれあう」と言っておけばいい。相手が自分と同じウィスキーを選んだら?そんなの「僕らは価値観を共有しているので好みが一緒」と言えばいい。お気づきだろうか。この性格診断をしたときからすでに孔明の罠にはまっているのだ。まさにこれは陸遜をハメた石兵八陣。この備え、いかにして破ることができるだろうか?
とまあ、恋愛工学?みたいに理詰め?で書いてみたけど、そもそも三国志のオタトークをしてモテたためしは無いですね。そういうとこだぞ!
今週のお題「バレンタインデー」