花見は好きだけど混雑は嫌いだ。
筆者は東京の下町に住んでおり、花見シーズンの名所といえばこのあたりだと上野公園か隅田公園ということになる。しかしどちらもこの時期は混んでおり、とくに上野公園は交通の便もよく都内有数の花見スポットで知られ多くの花見客が訪れる。
もちろん、それはとても良いことだ。しかしそこにはつねに問題がつきまとう。それは花見の場所取り問題だ。
特に大企業の花見だと、朝から新入社員が広大な範囲の場所を押さえ、参加者が到着するまで無駄にその場所が使えない、ということになる。その新入社員も重役のご機嫌をそこねないよう、会場の中でも最も花がよく見える絶景スポットを押さえようとする。そうなると、彼らが場所をとっている間、他の客はそこで花見ができない、というのが非常にもったいなく感じてしまう。巨大資本の人海戦術により一般客にしわ寄せする花見にはたして風雅というものがあるのか、それこそ江戸っ子に言われば「粋じゃないよね」という話である。
いや、彼らが花見をしたい気持ちも分かるのだ。野外で桜を眺めながら飲み食いするのは最高だし、新入社員とベテランや重役が無礼講で親睦を深める場も必要だろう。筆者が問題にしているのは場所取りだ。ならば、場所取り不要の花見を提案したい。そう、立ち飲みスタイルによる花見である。
これはハイドレーションという商品だ。タンクに水を入れチューブから水を吸えるようになっている。これを背負ったりバックパックに入れておくことで、登山やマラソンをするときにハンズフリーで水分補給が可能となる代物である。
このタンクに酒を入れれば当然ハンズフリーで酒を飲むのが可能となる。
いや、これはなにも筆者のアイデアではない。この技は、筆者が富士山に登った時に一緒だった登山上級者から教えていただいたことである。この技法がどこまで一般的なのか分からないが、少なくともその方はハイドレーションにワインを入れて、登山の休憩時にハイドレーションでワインを吸っていた。筆者はそれを見てとても便利だなと思った記憶がある。
ならば、平地の花見でハイドレーションを使えば立ち飲みスタイルの花見酒が可能なのではないか。さっそく御徒町のモンベルでハイドレーションを購入し、今年はこれで立ち飲みスタイル花見酒をしよう、と思い立った次第である。
ハイドレーションもいろいろな商品があるけれど、筆者が買ったのは2Lタンクである。これならば氷結1Lなど余裕で入る。
つまみはどうするか。いろいろ考えたが、立ちながら食べるには串が最も効率がよいとの結論に至った。つまり、おそ松くんに登場するチビ太スタイルである。チビ太を見よ。おでんの串をもちながら歩いたり走ったり、果てはおそ松たちとケンカまでこなしているではないか!
なので、串刺しにできるおかずをお弁当に詰め、適宜補充しながら串に刺して食べることにした。
まずは一の重、コンビニの冷凍からあげである。
唐揚げはコンビニでも串スタイルで提供されているので、まったく違和感がない。
続いて二の重。コンビニの冷凍シュウマイである。
これも串スタイルで提供するコンビニがある。弁当に詰める段階で事前に醤油をたらしておくといいだろう。
三の重、コンビニのチルドおでんである。
串おでん、もはや説明不要の正統チビ太スタイルである。むしろなぜ皆がおでんを串で食べないのかが不思議でならない。正統チビ太スタイルのおでん食を広めるためにも一役買いたい。
準備は万端である。いざ、上野公園へ!
…ところが、そこでは取材班が予想だにしなかった事態が待ち受けていた。
散っているのである。桜が。上野の桜が完全に散っているのである。葉桜どころのレベルではない。これは…これはただの葉だ。言っておくがこの写真を撮ったのは4月1日である。例年なら普通に花見ができる時期である。なのに今年はこんな状況だ。どうして…どうしてこんな不合理なことが…俺の身にばかり…
とりあえず桜の木の前で通行人にお願いし写真を撮ってもらった。そう、完全に一人で立ち飲みスタイルの花見に行ったのである。このことも、後に取材班(一人だけど)を苦しめることになる…。
同じ上野公園でも日陰のほうはまだかろうじて桜の残骸が残っているのでそちらで立ち飲みスタイル花見を行うことにした。
スッとでてくるハイドレーションのホース。これで桜を愛でながら酒を飲んでいるところを写真に撮ってもらうことにする。
…ただの公園で酒を飲む不審者、といった絵ヅラになってしまった。いや、本当はこの写真の右手にちょっと桜の残骸があったのである。だからもう少し右手にパンしてもらえばちょっとは花見の風情を感じられる写真が撮れたのである。しかし…しかし…ただでさえ道行く人に頭を下げて不審者たる俺の写真を撮ってもらっているのに、これ以上の…これ以上の撮影指導は…できない…人として…
唐揚げ棒を食べながら花見をしている筆者である。花見の風情は若干つたわるが、こんどは下半身が見きれており俺が他の観光客の中に埋没するような写真になってしまった。広角レンズなのでもうちょっと寄りで下からあおるようにとれば桜も俺も強調する写真になったのに…いや、人として…人として、これ以上の撮影指導はできない…
最終兵器おでんである。せめてこの写真だけはキメてほしい…
が、ダメっ…!右手に桜の残骸があったのでそれをバックにとってもらいたかったのだが、これだと単に路上の障害物をみながらおでんを食べてる不審者である。もっと撮影者が左に移動して撮って欲しかった。しかし…しかし…これ以上の撮影指導は…人道にもとる…!
というわけで、立ち飲みスタイルの花見をするにはしたが、絵的に映える写真にはならなかった。もちろん一人で立ち飲みスタイルの花見は可能である。しかし、これではブログの記事にはならない…だって…だって…写真を見る限り…俺、花見をしてませんよねこれ?
なので友人に協力してもらい、翌週の日曜日に一緒に花見をする約束をとりつけた。しかし4月1日の時点でこの状況なので、翌週ともなればもう桜の花見は不可能だ。なにか…なにか他の花で、花見というわけにはいかないか…この時期に咲いてる花で、花見…
タンポポ?
そうだ、タンポポを見ながら花見をすればいいのではないか。なにもこれは無理筋で言ってるのではない。なぜなら、花札を見れば自明であるが、9月の菊の役札には酒の杯が描かれている。菊を愛でながら菊酒を飲む…この菊見酒もなかなか風流な行為だと言える。
なら…なら…菊にそっくりなタンポポを眺めながら酒を飲んでも風流でしょうが!?
だいたい刺身の盛り合わせに載っている食用菊をみんなタンポポタンポポ言ってるじゃないか。つまりよほど詳しくない限り菊とタンポポの見分けは不可能なのだ。ならばタンポポを愛でながら菊見酒を行ってもなんら問題がない。タンポポはいわばジェネリック菊見酒なのだ。
さっそく取材班は次の日曜日にタンポポを見に行くことにした。
前回ハイドレーションにチューハイを入れていったが、炭酸でタンクがパンパンになって負荷がかかる、という学びを得たので、今回はコンビニの安ワインを入れることにした。こうやって場数を踏むことによりハイドレーション酒飲みのノウハウが蓄積されていく。
やってきたのは荒川河川敷である。
タンポポだ。
酒を飲みながら、愛でる。
荒川だ。
酒を飲みながら、愛でる。
タンポポの群生地だ。
酒を飲みながら、愛でる。
というか、こんだけ人がいないのなら、そもそもタンポポ花見ではわざわざ立ち飲みスタイルで臨む必要はなかった、というのが取材班の出した結論である。ちょう穴場スポットなので桜の花見に疲れた人は河川敷でタンポポ花見をやろう。
以上です。