崎陽軒のシウマイ弁当プロ志望届

俺が小学生中学生のころ、つまりかれこれ20年以上前のはなしであるが、当時はTVゲームが大好きだったので、一生ゲームばかりやって生きていけないかな…なんてことを漠然と思っていた。もちろん当時は「TVゲームのプロ」という概念は無かった。いや、高橋名人や橋本名人などはいたけれど、彼らは言ってしまえばメーカーに所属する広報であり、ゴルフで例えるならゴルフクラブメーカーの広報が名人を名乗ってはいるけれど、純粋にゴルフだけで生活してるプロプレーヤーは当時存在していなかった。というよりも、純粋にゲームだけで生活できるプロが職業として成立する、なんて当時は想像できなかったはずだ。

 

ところがどうだ。現在はEスポーツの隆盛で、ゲームのプレイだけで生活しているゲームのプロなんていう人がざらにいるではないか。

 

いや、ゲームのプロだけではない。レゴの組み立てだけで生計を立てるプロ、プラレールの組み立てだけで生計を立てるプロ…。自分が小さい頃は想像もつかなかった専業プロがここ数年で誕生している。良い世の中になったと思う。

 

そして、弁当の食べ方についても同じことが言える。つまり、弁当の食べ方なんてもので収入を得るプロが、この世にはいるのである!考えられただろうか?この状況を!!

 

弁当の食べ方のプロ第一号は誰か?俺の認識では、泉昌之の「夜行」というマンガ作品がプロ第一号である。泉昌之は原作・久住昌之、作画・泉晴紀、によるマンガユニットであり、夜行はそのデビュー作でもある。夜行は「かっこいいスキヤキ」という単行本に収録されている。

 

かっこいいスキヤキ (扶桑社文庫)

 

「夜行」の内容を説明すると、夜行列車にのったおっさんが幕の内弁当を食べる話、ただそれだけである。ただそれだけであるが、これが読んでみると抱腹絶倒なほど面白いのだ。信じられるか?弁当の食べ方、ただそれで人を笑わすことができるだなんて!それまでのマンガの物語といえば、ヒーローが世界を救う、とか、不思議なキャラクターとともに過ごす日常生活、みたいなのが王道だったのだ。それがどうだ。「夜行」は普通のおっさんが弁当を食べているだけである。地味だ。しかしそんな地味なおっさんが弁当の食べ方で苦悩する、ただそれだけでエンターテイメントになりうるんだという発見。仮に「世界三大その手があったか」というものがあるとしたら、コロンブスの卵に並んで余裕でランクインするぐらい画期的な発見がこの夜行という作品である。

 

夜行の登場により、弁当の食べ方というものがエンターテイメントになりうることが証明された。そして、例えるなら野茂英雄の後を追って日本人メジャーリーガーが次々誕生したように、弁当の食べ方という芸もいたるところで見かけるようになった。いわばプロも増えつつあるということだ。みなそれぞれの芸を競い合い、立派にエンターテイメントとして成立している。そういう時代である。

 

そして今も弁当の食べ方でプロ・素人いりみだれて喧々諤々の議論が盛り上がってる界隈があるのである。とはいってもその議論が盛り上がるためには(1)その弁当が抜群の知名度をほこり(2)なおかつ品目がバラエティゆたかで食べ方を検討する価値が大いにある(3)なによりその弁当が愛されているので議論してる奴らみな”ガチ勢”である、という三要件を満たす必要がある。もうお分かりかと思うが、その弁当とは崎陽軒シウマイ弁当である。

 

ためしに「シウマイ弁当 食べ方」でぐぐってみるといい。出るわ出るわ、シウマイ弁当食べ方芸の山!

 

おわかりいただけただろうか。もはやシウマイ弁当の食べ方は、進撃の巨人黒子のバスケに比肩しうるコミケの一ジャンルになっているという事実に…。

 

 シウマイ弁当に持ち込みのふりかけを使用する、という奇襲作戦。つまりそれほど議論が進みすぎ、シウマイ弁当の食べ方界隈も正直かなり”煮詰まってる”んだ、と思っていただきたい。

 

ところでかくいう自分も横浜生まれ横浜育ち、当然のようにシウマイ弁当を愛し育ったのでシウマイ弁当に一家言ないはずがない。つまりある。めっちゃある。シウマイ弁当について語りたいことが山ほどある。とはいえ俺は素人だ。それでもいい。素人でもシウマイ弁当を語っていい。しかし…しかし…俺はシウマイ弁当のプロになりたいんだっ…!

 

 

 

 

 

前置きが長くなってしまったが、要するに本エントリは崎陽軒シウマイ弁当のプロを目指すべく書かれた文章である。つまり崎陽軒シウマイ弁当プロ志望届シウマイ弁当の食べ方を語るだけで生活するのが俺の最終目標です、よろしくお願いします。

 

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シウマイ弁当スーパードライ350mlである。家でも新幹線でも同じ食べ方ができるよう、今回はこの組み合わせでいこうと思う。

 

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開封の儀です。

 

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あら、おいしそう。いいですね。右も左もいいですね。どれから箸をつけようか迷っちゃいます。…と言いたいところだけど、俺に言わせれば甘い。なにか忘れてませんか?

 

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そう、弁当のフタにこびりついた米つぶ…!シウマイ弁当の食べ方を議論するなら、まずはシウマイ弁当のフタ問題から議論を出発する必要がありませんか?これはカップアイスのふたにこびりついたアイスクリームを舐めるのかスルーするのか問題と全く一緒である。なぜなら、シウマイ弁当は間違いなくフタに米つぶがひっついてしまう構造上の問題をかかえているからだ。もち米にも似た粘着力の高さに、静止摩擦係数の高そうな木のフタ。つまり、このくっつきは必然であり宿命。ここをどうするかの議論は避けて通れない。食べるべきなのか。それとも、そんなはしたない真似はできないので見てみぬふりをするのか…?あなたならどうする?

 

ではここで正解の発表です。

 

正解は、ふたについた米も当然食べる、です。しかも箸をつかわずに直接フタをなめるようにして米つぶを食べるのが正しい作法である、と筆者は力強く断言します。

 

え?下品だ?はっ、そういうことを言い出す奴は物事の本質をなにもわかっちゃいない。そんなことを言い出したら、蕎麦やラーメンをすすって食べるのは下品だし、お茶碗のような食器に口をつけて食事をするのは下品なのだ。でも、日本の文化は、麺をすすって食べ、食器に口をつけて食べるのは美徳だ、という文化である。なぜか。日本はすべての物事に対して五感をフル回転して楽しむ文化であるからだ。先の例でいうならば、麺類を食べるとは味覚や嗅覚だけでなくすする音、つまり聴覚でも楽しんでいるし、食器は視覚や手の触覚だけでなく、口の触覚でも楽しむ、というわけだ。つまり、海外では多くの地域で不作法とされるものが、日本では正しい作法とされる。

 

なら…なら…フタを舐めて米つぶを食べるのも立派な作法でしょうが??

 

みろ、シウマイ弁当のフタを!木を薄く削ってつくられた、経木折のフタだ。今時ないぜ、こんな弁当。今半の弁当だって発泡トレーだっつうのに、崎陽軒シウマイ弁当は昔と変わらぬ経木折…せっかくのこの木の香りを体感せずしてどうする?そう、みなも実際にこそいで食べてみるがいい…鼻腔に広がる木の香り…森の香り…そして噛みしめる米つぶ…まるでピクニックで行った山の上で弁当を食べているかのような爽快感すら感じる…。最高なのでは?

 

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ごはんのつぶ、完食!美味しかった…。これを下品の一言で切り捨てる奴は人生の楽しみ方を分かってない。ここは問答無用で「舐めるようにフタについた米つぶを食べる」を10点にします。フタの米つぶを箸で食べたら?んー、間違いじゃないけど7点しかあげられないな。うん。後で挽回しようね。

 

本来ならここで本稿を切り上げてもいい。それぐらい崎陽軒のフタ問題はクリティカルな指摘だったと言える。しかし、俺はプロなので、プロ志望なので、最後まで魅せる食べ方をしていきたいと思います。ご期待ください。

 

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改めて状況を報告したい。白米8個師団を筆頭に、シウマイ5個師団、から揚げ、玉子焼き、かまぼこ、焼き魚、筍煮、杏子煮、昆布に紅ショウガ、小梅、というおなじみのラインナップである。どう攻めるか。

 

まずは作戦の大枠、グランドデザインを決めていきたい。つまり、杏子をどのように考えるか、ということである。

 

ご存知無い方の方に説明しておくと、シウマイ弁当の食べ方にはざっくり分けて大きく2つの考え方がある。杏子を一番最初に食べて「杏子を無かったことにする」という考え方と、杏子を一番最後に食べて「杏子は食後のデザートである」という考え方である。

 

最新の学説によると、「杏子はデザートではない」という考え方が主流である。将棋の戦法と同じで、杏子をどうとらえるかにも流行り廃りというものがあるのだ。最近は杏子を最初に食べるという流派が主流なんである。しかし、筆者は昔かたぎの男なので、かつて正統と言われた杏子デザート説、つまり杏子フィニッシュをキメたい。これは将棋の羽生さんと一緒で、俺はプロなので、プロ志望なので、杏子を先に食べる書き方もできるし、杏子フィニッシュに持っていく書き方もできる、つまり得意の戦法などなくすべてに対応できる自在型なのである。なので、あえて難しい方、つまり杏子フィニッシュルートを選択していきたい。

 

まず食後のデザートは決まった。あとは、作戦の方針である。やはりここはビールがあるので、ビールの肴としてシウマイ弁当のおかずをつまみ、次に米とおかずを食べ、そしてデザートをキメる、という流れで行きたい。奇をてらわず、あくまで正攻法で臨みたいと思う。

 

作戦の大枠は決めたので、今度は作戦の細部をきめていきたい。

 

よくあるパターンなのが、最初にビールの肴としておかずを消費しすぎて、後から白米のおかずが足りなくて泣きを見るパターンである。シウマイ弁当あるあるの筆頭といってもいいかもしれない。

 

今回それは避ける。避けていくために、あらかじめ兵力と火力に応じた作戦担当正面というのを決めていきたいと思う。

 

敵は白米8個師団である。これをどうやっつけていくか。ここで兵力の火力を確認しておきたい。火力とはなにか?つまりそのおかず一つでいくつの白米を屠れるのか、という指標である。たとえばシウマイ。シウマイ1個にたいして白米がいくついけるのか、いわばどれだけごはんがススム君なのか、ごはんの推進力はどのくらいか、ということである。筆者の個人的感覚であれば、シウマイ1個にたいし白米1killである。しかし焼き魚はどうか。焼き魚はかなりの殺傷力を誇っている。筆者の感覚で言わせてもらうと、焼き魚は3killである。つまり焼き魚1で白米3個師団にあたらせても十分に応戦できる。

 

このように、あらかじめ兵力と火力に応じ白米8個師団に対しおかず軍団をどう当たらせたらよいかを事前に決めておいたのが次の図である。

 

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作戦を説明する。白米8個師団に当たらせるのは、小梅(1kill)こんぶ(2kill)シウマイ2個師団(2kill)そして焼き魚(3kill)である。

 

となると、残りの兵力でスーパードライ350mlを担当する、ということになる。

 

めっちゃ分かりやすくないですかこれ?

 

まるで、赤壁の戦いのときに張飛趙雲関羽を先の先の先まで見越して伏兵として配置した諸葛孔明のようなエレガントな采配である。これで白米にあたらせるおかずが足りなくなるという後顧の憂いは完全に断った。あとは全兵力をビールに当たらせるだけである。

 

では実際にビールとおかずを食べていきたい。

 

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だいたいにおいて、まずは玉子焼きやかまぼこから食べるのが常套手段である。筆者もそれに異存はない。ちなみに筆者の個人的感覚だと玉子焼きとかまぼこは0.5killすらあやしい。醤油をかけてようやくギリ1killかな、ぐらいの感覚である。しかしビールのお供してはひじょうに具合がよい。まずとりあえず空腹を満たしてからのビール…という感じであり、いわばシウマイ弁当におけるお通し、つきだし、といった風情が玉子焼きとかまぼこにはある。

 

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ちなみに筆者の中での紅ショウガの位置づけはあくまで薬味である。たとえばから揚げにちょっと紅ショウガを載せて食べると油っぽさがなくなり美味しい…ということになる。いわば遊軍、補助火力である、というふうに考えたい。

 

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いやービールとシウマイ弁当、最高だな~

 

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みよ。ビールを飲みほした時点での戦況である。まさに計画通り。圧倒的ではないか、わが軍は。

 

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なんかすげえ食べにくそうな順番で食べてますけど、これ皆さんに担当正面を分かりやすく説明するために白米の上に載せてるだけであって、だからシウマイごはん→こんぶごはん→焼き魚ごはん→…のように食べるとこのような歯抜け状態になってしまうのである。ふだんの俺はこの作戦図を脳内に展開してますから、傍目には普通に食べてますからね俺…

 

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焼き魚を3口に分けて食べたが、最後の一口は紅ショウガを載せて食べる…。このようにプロ野球のピッチングよろしく緩急をつけるのが大事である。

 

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予定どおりの兵力をもって白米8個師団、消滅である。ということは…ということは…おおお、ついにきてしまうのかーッ!?

 

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決まったーッ!杏子フィニッシュ、見事に決まった!

 

どうですか。これがロジカルなシウマイ弁当の食べ方というものである。皆さんも参考にしてほしい。どうか素敵なシウマイ弁当ライフを!

 

以上です。