カルタを極めた3歳の娘が100%全力勝負の戸愚呂(父)と闘い勝利した話

自分の子どもとゲームするときにわざと負けて子どもに勝たすのあるじゃないですか。俺、あれはよくないと思うんですよね。勝負というからには手加減無用、真剣勝負だから面白いのだし、勝ったら本当に嬉しいし、負けたら本当に悔しいし、勝つために頑張ろうってなるのだと思います。第一、そういう接待プレイは相手する大人の方もつまんないしつらいと思います。大人も子どもも楽しめるのは真剣勝負しかないのです。

 

大河ドラマ・おんな城主直虎でこんなエピソードがありました。

 

井伊家の次期当主である虎松(後の井伊直政)が五目並べをやっている。虎松は5~6歳くらい。虎松の五目並べの相手をするのは他の家臣の子どもたち。虎松よりもちょっと年上。彼らは次期当主の相手をするということで、虎松を勝たせるようにわざと負けてしまう。それを見ていた直虎は怒る。「なんで真剣勝負をせぬのじゃ!井伊家の当主になろうという者が手加減されて勝ってよいのか!皆の者、本気で戦うのじゃ!」と。

 

そう言われた家臣の子が本気を出して虎松の相手をすると、当然のように虎松は負けてしまう。連戦連敗。連敗に次ぐ連敗。何度やっても勝てない。そのうち虎松は五目並べを嫌いになってしまい、もうやりたくない、と弱音を吐く。直虎は虎松に対して手加減させたくないし、かといって五目並べを嫌いにさせたくないし、どうしたらよいのか分からず困り果ててしまう…という話である。

 

皆さん、どう思います?

 

自分は直虎の意見に賛成です。手加減して勝っても本人のためにならない。やるんだったら真剣勝負。それが本人のためであり、相手をする俺のためでもあります。ところが、大人と子どもが真剣勝負をやったら勝負にならない。大人の方が圧倒的に強いからです。このまま勝負をしたら虎松のように、そのゲームのことを嫌いになってしまうでしょう。

 

どうしたらいいと思いますか?

 

答えは一つしかありません。子どもにハンデを与えて、対等な勝負になるように、ゲームバランスを調節すればいいのです。

 

これを言うと「なにを当たり前のことを…」と思うかもしれません。でも、本当にそうですか?手加減=ハンデだと思ってませんか?どこかでちょっと手加減してませんか?自信をもって「自分は子どもに対し手加減してない」と言い切れますか?

 

自分は自信をもって断言します。これは真剣勝負なので、手加減は一切してないと。俺は本気で娘に勝つために娘とゲームをしています。もちろん、ゲームバランスを調整して、娘と対等な勝負になるようにした上での話です。

 

例えばこれが将棋なら、ハンデをつけやすいです。飛車落ち、飛車角落ち、四枚落ち、六枚落ち…なんなら銀も金も落としてもいいでしょう。

 

直虎の例で言えば、先手を虎松に譲り、なおかつ先手では禁じ手である三三・四四を認めてあげるルールでやれば格上相手でも対等な勝負になったと思います。

 

では、それ以外のゲームなら、どうやってハンデをつけますか。

 

例えばカルタ。うちの娘、最近ひらがなを覚えたので、カルタで遊ぶようになりました。カルタでどうやってハンデをつけますか。

 

…ここが親の腕の見せ所です。実は、対等な勝負になるようにハンデをつけるのはとても難しいのです。

 

ちょっと前に野球賭博のニュースが世間を賑わせましたが、その時に記事を見て知りました。野球賭博には「ハンデ師」と呼ばれる人間が存在します。例えば、ぶっちぎりで首位を独走するチームのエース投手と、ぶっちぎりで最下位に沈むチームのローテーション谷間投手が対戦するとします。どちらが勝つか予想してください。と言われたら、10人が10人とも首位チームのエースが勝つと予想するでしょう。それでは賭けが成立しません。そこでハンデ師がハンデをつけます。この試合の場合、例えば首位チームは5点以上の点差で勝たなければなりません、4点以下の点差であれば最下位チームの勝ちとします、と。…ではあらためて質問します。首位チームが5点差以上で勝つか、それとも最下位チームが4点差以内で負けるか、どちらだと思いますか?

 

…これだと票が割れると思います。こういったように、野球賭博において適正なハンデをつける人のことをハンデ師というそうです。ハンデ師は、そのチームの状態、打線の好不調、相手チームとの対戦成績、投手の状態、ありとあらゆるデータを基に適正なハンデをつけるそうです。そして、そのハンデ師はごく一握りの人間しか出来ないという話です。なぜなら、ありとあらゆる情報をもとに適正なハンデをつける作業は難しいからです。ハンデ師がいないからその日の賭博が成立しない、というようなこともあるそうです。

 

話を戻します。娘と勝負するカルタで真剣勝負が成立するような適正なハンデはどうやってつければいいでしょう。ここはハンデ師の腕の見せ所です。

 

まず、カルタの量を減らすことです。あいうえお50音全部のカルタをフルカルタとすると、25音のハーフカルタにします。子どもは視野が狭いので、狭い範囲なら勝負が成り立ちます。

 

そして、大人は読み手を兼ねることにします。大人は読み札を読んでから、札を探す。子どもは最初から札を探す。十分なハンデです。もちろん大人なので読み札を読みながら札を探すこともできますが、それもハンデとして封じることにします。25枚ハーフカルタの上で、なおかつ読み札を読み終えるまで取れないのなら相当なハンデです。

 

うちの場合はこの2つのハンデでようやくひらがなを覚えたての娘と対等な勝負が成立しました。勝ったり負けたりです。もしこれでも勝負が成り立たないのなら、「大人は読み札を2回読み終えてからではないと取れない」というルールにしてもいいでしょう。

 

そしてこのハンデでやるうちに娘が安定して俺に勝利するようになりました。なるほど、娘も強くなった。ならばこちらも少しずつハンデを解除して対等に戦えるようにする必要があるでしょう。あれ、そういえば、これと似たような話をどこかで聞いたことがあるような…

 

「80%…!!」

 

そうだ、幽遊白書の戸愚呂(弟)だ。圧倒的な力を誇りながら、幽助の成長に合わせて徐々に実力を出していくこの感じ、まさに戸愚呂(弟)じゃないか。そう、いつしか俺も戸愚呂(弟)のような気持ちで娘に対峙するようになりました。

 

80%の実力を出した戸愚呂(父)、大人は読み札を全て読み終えてからではないと取れない」というハンデを解除することにしました。このハンデが存在すると、枚数が少なくなった終盤はほとんど娘に取られてしまいます。かなり強力なハンデです。そのハンデを解除。読み札を読んでる間にも俺は札を探す。25音ハーフかるた全力勝負です。

 

もちろん最初は娘に勝ちました。これが大人の実力だと。

 

しかし回を重ねるごとに娘は学習し、強くなっていきます。いつしか、25音ハーフかるたで全く娘に勝てなくなりました。例えば「やぎさん やっぱり やまがすき」という札の「やぎさん」ぐらいのところでパーンとやられます。え?マジ?これ、強くない?娘、強くない?こちらは読み札を読みながらなので、このスピードでやられると全く歯が立たない。これは…出すしかないのか…俺の真の実力を…!!

 

「100%…!!」ズズ…ズ…

 

「はじめて”敵”に会えた……」ズズズズズズズズズズズ

 

「いい試合をしよう……」ピシ!

 

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100%の真の力を出した戸愚呂(父)、50音フルカルタ全力勝負!!

 

いかに娘のスピードが上がってきたとはいえ、枚数が多ければ探すのに時間がかかる。枚数の多い序盤は俺の領域(テリトリー)だ。終盤は圧倒的に娘が優位なので、序盤でいかに枚数を稼ぐかだ。スパーン!激しい衝撃波とともに札を取る俺。手加減は無用だ。序盤で稼がないと終盤に必ず追い越されるのだから…。

 

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 やらせ写真は撮りたくないので、カルタを読みながら右手で一眼を持ってノーファインダーで撮ってます。構図は安定しませんが、勝負の緊迫感が伝わりますでしょうか。

 

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中盤からは娘の反撃が始まる。この写真、Exif情報を見てびっくりしたんですけど、シャッタースピード1/125なんすよ。1/125のスピードをもってしても捉えきれない娘の手の動き!!マジで速いんです!!全力を出さないと勝てません!!娘の強さ、伝わってますでしょうか!!!

 

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死闘を繰り広げ、残り2枚。我が家のハウスルールでは、これを取った者が2枚総取りです。行きますよ!

 

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「いち…」スパーン。やられました。勝てるわけない。

 

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結局21対23のスコア、僅差で娘に敗れました。僅差とはいえ、100%中の100%の力を出し切って負けたのだから、完敗というしかない…。

 

 「……はじめから戸愚呂は桑原君を殺す気がなかったんじゃないかな……」

 

「オレには彼がずっとこうなることを待ってたような気がしてならない」

 

「本当に強い者が自分を倒してくれることを…悪役を演じ続けても…」

 

「今となってはわからんことだがな……」

 

 

分かる。今の俺、めっちゃ戸愚呂(弟)の気持ちが分かる。今にして思えば、俺も全力を出した上で娘に負けたかったのだ。

 

やっぱりですね、わざと負けるっていうのは相手に対して失礼だと思うんですよね。ナメック星において「そうだ、左手一本で戦ってあげましょうか。少しは勝負になるかもしれませんよ」などとネイルさんに言ってのけたフリーザと一緒だと思うんですよ。奴は相手に絶望感を与えるのを楽しむために変身してますから。対戦相手に対するリスペクトがまるでない。

 

俺は戸愚呂(弟)に共感します。相手と対等に戦うためにハンデを課し、ハンデの枠内で全力を尽くして相手と戦う。娘と対戦するゲーム、カルタに限らず、ハンデをつけながら娘と真剣勝負をしたい。そしてそれは、俺も娘も、めちゃめちゃ楽しいのでした。