全盛期のデブは座っただけでソファが折れる

2年ぐらい前の話だろうか。「測るだけダイエット」というのが流行った時に、よし俺もダイエットしよう、と一念発起し、当時80㎏あった体重が半年ぐらいで70㎏を切るぐらいまで減量することに成功した。

 

今にして思えば、この成功体験が良くなかったのだと思う。

 

「俺は本気を出せばいつでも痩せられる…」

 

このような慢心のせいで最近の体重は82㎏になってた。元より増えてる。

 

デブになると日常生活を送るうえでいろいろと弊害がある。ダイエットをする前、会社でしゃがんだときに、ビリビリビリと盛大な音とともにスーツのズボンが全部裂けた、ということであった。当然替えのズボンなど持っていないのでホッチキスで避けた箇所を留めて一日中その格好で仕事をこなした。衣服がなにかの拍子で裂ける、というのはよくある”デブあるある”の一つである。

 

俺はこの手のデブあるあるの修羅場はけっこうくぐっているので、最近は衣服の張り具合で「あ、これは無理をしたら裂けるな」というのがなんとなくわかるようになった。だからデブあるある的な事故と無縁の平穏な生活が続いていたのである。ついこの間までは。

 

事故は唐突におこった。家でソファでくつろごうと腰を掛けた瞬間、ガコーン!というけっこうな音がソファから聞こえた。え?なにいまの??ソファをひっくり返しタッカー留めされた底面の布を剥がしてみると、ソファーの骨組みが真ん中でぽきりと折れていた。えー?こんなことってあるの?たしかに普段よりちょっと勢いつけてソファに腰かけたけども、ソファが折れる、という事象は聞いたことがない。まるで全盛期のイチロー伝説のようではないか。空手家が拳で瓦を割るかのように、全盛期のデブは座っただけでソファが折れる。

 

それはこの家に引っ越してきたときに買った、IKEAの安いソファだった。10年近く使ったと思う。ものは考えようだ。これを機に、ちょっと良いソファを買おうじゃないか。

 

で、蔵前の家具屋NOCE(ノーチェ)に行ったら素敵なソファに出会いいっぺんで気に入ってしまった。それはアームとフレームにオークの天然木を使用した青色のソファだ。座り心地が格段に良い。ソファに張りがあるというか、デブが座っても余裕で跳ね返してくるような弾力がある。佇まいにも高級感がある。これだ。これしかない。

 

しかし注意書きに「搬入の際に、搬入経路の幅が85cm以上必要になりますのでご確認をお願い申し上げます」とある。うちの間口を計ったら80㎝であった。まるでズボンにデブの体が入らないように、うちの家にソファが入らないので悲しくなった。

 

「…このソファ奥行78でしょ?玄関で梱包を解けばギリ搬入できるのでは」

 

まるでデブが掃けないズボンをちょっと腹をひっこめて無理くり履くように、俺もまた狭い我が家にソファを無理くり入れようとしている。往生際の悪さもまたここ数年で培った”デブあるある”の一つなのかもしれない。

 

いや、そんなデブあるあるを言ってる場合じゃない。思えば今年は少し飲み食いが過ぎた。来年こそは節制して70㎏を切るぞ。これは決意であり宣言だ。